龍谷大学 先端理工学部応用化学課程/理工学部物質化学科

富崎欣也 教授

取り組んでおられるテーマは?

生物機能に学ぶ未来材料創製です。つまり生物機能を利用した未来新材料をつくりだす研究です。
その内容は3つに大別できます。
1つ目は、生物のバイオミネラリゼーションに学ぶ新規有機.無機複合材料の開発です。ザリガニの殻や貝の真珠層はタンパク質と炭酸カルシウムからなる複合材料です。ここではタンパク質が炭酸カルシウム結晶同士をくっつける「のり」の役割を演じています。軽くて丈夫な理由はここにあります。その他にも体内に鉄を取り込む磁性細菌やシリカによって美しい外壁を構築する珪藻などまだまだ生物に学ぶべきことはたくさんあります。現在は、ペプチドの自己組織化能力を生かして、ペプチドナノ構造体を鋳型とする有機.無機複合材料の開発にチャレンジしています。
2つ目は、細胞内シグナル伝達機能に学ぶ生体分子情報デバイスの構築です。
細胞外からのシグナルを細胞内の核へ伝達するために、生物は酵素群を駆使して、様々な化学反応を連鎖させています。そこでは、情報の取捨選択が行われており、この原理は分子を基盤とする分子ピュティングへと応用可能です。現在は、タンパク質翻訳後修飾酵素機能に着目し、酵素反応を利用するペプチド性分子論理回路の構築にチャレンジしています。
3つ目は、天然触媒機能に学ぶ人工酵素の創製です。酵素は温和な条件にて高効率かつ高選択的な化学反応を触媒します。しかし、酵素そのものを産業応用するとなると長期安定性や厳密な基質特異性が仇となり、工夫が必要です。
遺伝子操作により酵素の構成アミノ酸を置換する研究も行われていますが、私は化学合成が可能で酸化や乾燥に耐えるペプチドに酵素機能を発現させるアプローチに魅力を感じます。特に今世紀はエネルギーがキーワードになりそうですので、水素発生機能の発現に注目しています。

現在の研究テーマを始めるきっかけは?
私が在籍した九州工業大学工学部物質工学科応用化学コース(当時)には化学工学、電気化学、無機材料、高分子化学、有機化学、生物工学などの講座が ありました。「化学」の分野において「生物」に関わる研究をしたいと漠然と考えていた私は迷わずペプチドやポルフィリンなどの生体機能分子を扱う研究室に配属を希望しました。
研究を開始して、私はペプチドを化学合成できること、タンパク質の様に自発的に立体構造を形成するよう自在に設計できること、また人工酵素を創製できる可能性があることを学び、ペプチドは生体内でホルモンとして機能するのみならず、未来材料の素材になりうると考えました。
現在では、いろいろな分野で高集積化、微細化(トップダウンアプローチ)が追求されていますが、自己組織的にナノスケールの構造体を形成するペプチドはボトムアップアプローチに適したビルディングブロックであると考えています。
指導する上で気をつけられていることは何ですか?
まず、倫理観をもった人間になってもらいたいです。職能については、社会が求める技術者あるいは研究者を輩出したいと考えています。どちらにも言えることですが、学生にはいつも「日々の真摯な努力の積み重ねが大事だ」と「思いっきり楽しみなさい」といっています。

繰り返しになりますが、ペプチドは化学合成が可能であること、タンパク質の様に自発的に立体構造を形成するよう自在に設計可能であることが最大の特徴です。微細加工技術も限界に到達しつつある現在、ペプチドを基盤とする環境低負荷未来材料の開発は魅力的であるといえます。

20世紀は我々に「豊かさ」と「負の遺産」を与えました。「負の遺産」解決のために生物機能を勉強し環境低負荷未来材料を開発したい人、限られた時間 で後悔しないよう明るく、楽しく、元気よく、思いっきり研究室生活を過ごしましょう。

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