水と有機溶液界面での電荷移動反応



 混じり合わない二つの溶液(水と有機溶媒)が接する界面では、電子のみならずイオンも移動し、固体電極では生じないような特異な反応がしばしば観察されます。液液界面という反応場は、分析化学的視点(イオンの分離定量など)と生化学的視点(有機溶媒を生体膜と見立てる)から幅広く用いられています。
 本研究室では、①呼吸あるいは光合成のモデル反応、②界面に活性剤等が存在するときの電荷移動反応、③界面での金属析出反応、等を「電位と電流の関係を記録する方法(液液界面電荷移動ボルタンメトリー)」で調べ、その反応機構を考察しています。



 液液界面電荷移動ボルタンメトリー用の電解セルです。従来から、有機溶媒として1,2-dichloroethaneが主に用いられていますが、当研究室ではトルエンのような芳香族炭化水素でも液液界面での電気化学測定ができることを明らかにしました。


新しいフロー型迅速全電解セルの開発

 溶液中のすべての物質を電解する電気分析法(クーロメトリー)は、検量線を必要としない絶対定量法として極めて有用な分析法の一つです。
 本研究室では、1分以内に目的物質を全電解できる新しいカラム電極を開発し、正確かつ高精度な電量分析をする方法を提案しました。さらに、液液界面イオン移動反応に基礎をおいた迅速全電解フローセル (FECRIT) の開発にも参画し、難酸化還元性のイオン種であっても正確かつ高精度な電量分析が可能であることを明らかにしました。開発した電解セルを用いて、例えば排水中の有害物質や生体試料を迅速に分析するシステムの構築を目指しています。また、電解セルのさらなる改良を目指して、新しい電極材料を探査しています。



光合成生物を用いた有害物質の検出


 光合成生物に光を照射すると、細胞内の電子伝達鎖において電子が流れます。この電子は細胞から直接電極に取り出すことは出来ませんが、メディエータ—(酸化還元体)を用いれば電極に取り出すことができます。すなわち、メディエータ—と細胞を電極表面に固定して光を照射すると、電流が観察されます。光合成反応は有害物質が共存すると抑制されるため、電極に取り出せる電子の量も減少します。この現象を利用して、光応答電流の発生機構の解明および有害物質検出システムの構築を目指しています。